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【インタビュー】国内コンペティション長編部門『ミドリムシの夢』真田幹也監督
『ミドリムシの夢』
真田 幹也 監督インタビュー
——やはり真田監督にお話をきくにあたって、まず触れずにいられないのは、日本を代表する演出家、蜷川幸雄さんのもとで修業を積んでいたところです。今も役者さんとして活動されていますが、もともと役者志望だったと?
はい。役者を目指して、蜷川さんの劇団に入りました。何で取ってくれたか未だにわかりませんが…ただ、僕は役者としてはとても不出来で(苦笑)。まず、新人は最初、蜷川さんが舞台で演出つけるところをひたすらみていないといけない。それでだいたいの人はある程度の期間で良しとされて、現場に入れるんですよ。でも、僕はほんとうに出来が悪くて現場に入れず、蜷川さんの演出をみている期間がほかの人よりもそうとう長かった。それで芝居を学ぶと同時に、どこか演出にも興味が出てしまったんですね。
そもそも、蜷川さんの舞台も好きだったのですが、監督をされた映画『青の炎』も大好きだったので、そのときから実は映画をやってみたい気持ちが自分の中にどこかあったのかもしれません。
——蜷川さんとの出会いはやはり大きかったと?
そうですね。蜷川さんの大人数を完全に掌握しての群衆の演出とかすばらしいので、いつかあんなシーンのとれる映画を作りたいと思っていたりします。
——では、役者の修行をしていたときから、すでに映画を作りたい気持ちは当時からあったんですね。
そうだと思います。それと、深作(欣二)監督の『バトル・ロワイアル』に出演した際、こんな経験をしました。雨が降っていて、僕ら役者たちは体育館のようなところに待機していたんです。それで僕が何気なく雨が止んだかなと思って外をみると、真っ黒に日焼けしたタンクトップに半ズボンのおじさんが出てきた。深作監督なんですけど(笑)。それで、校庭で雨が止んだのを確認して深作監督が「やるぞ!」と声をあげたら、大人たちが一斉に動き出して準備を始めた。この光景がかっこよすぎて。大人たちがこんなに必死になって熱中している姿がなんともいえず、感動的だったんです。その瞬間に、いつか作る方もと決めた気がします。
——蜷川さんや深作さんの存在で映画に興味を抱く一方で、実際に一歩踏み出したきっかけはどこにあったのでしょう?
役者をやっていると役者仲間がどんどん増えていく。仲良くなるということは、みんな似たりよったりの状況なわけで、まあ、あるときにスケジュールがポンと空いたりするわけです(笑)。そんなときに、誰となしに「なにか自分たちで撮ってみよう」と言い出した人間がいて。「じゃあやろう、ところで監督は誰がやる」となって手を挙げたのがたまたま僕だったんですよ。そんな軽い気持ちで始めちゃったのが、かれこれ15年ぐらい前でしょうか。
——気づけば20本以上の短編をとっていらっしゃるということで。
ほんとうに気づけばです。
——では最初は観客に届けるというより、役者同士の創作の一環として始まった。
そうですね。ただ、自分が役者をやっていたから、たとえば出演した作品が誰の目に触れることもなく消えていくことほどの苦痛はないことはわかっていました。なので、公開に関しては常に視野に入れていましたね。1番最初に撮った作品も、下北沢のトリウッドにお願いしてロードショー公開しました。あくまで自主映画なんですけど、お客さんに見せることは意識して、ここまで続けています。
——短編であっても継続して作り続けてきたのはすごいことだと思います。
撮っていくと輪が広がるというか。「俺を主演で撮ってくれと」いう話が次から次に出てきただけで。まあ、末端俳優同士のオファーの仕合いですね(苦笑)。
そんな具合に仲間内でやってたんですけど、2006年に文化庁委託事業の「若手映画作家育成プロジェクト」に選出されて。そこからは資金を得て、本格的に取り組むようになりましたね。
——これまで発表された短編の内容に傾向はありますか?
いろいろなタイプの作品があってなかなかひとつに集約はできません。ただ、伊丹十三監督が大好きで。社会のちょっと気になることを、真っ向から斬ったり、ネガティブに扱うのではなく、笑える形に仕立てる傾向があるかなと思います。
『ミドリムシの夢』場面写真 ©2018「ミドリムシの夢」製作委員会
——そうしたキャリアを経て、今回が長編初挑戦になりました。
短編は短編の良さがあって立派な映画だと思っています。でも、長編に1度はトライしないと、本当の意味での映画の世界に近づけないかなとの思いが、ずっとありました。
それで短編には一区切りつけて、長編に挑もうと思いました。長尺を撮らないとわからないこともいっぱいあるだろうとも思ったので。
——完成した『ミドリムシの夢』ですが、二人の駐車監視員が主人公です。
いつからでしょうか。あの緑色の制服姿のおじさんをよく見るようになったなと思っていて。ある時、違反のキップを切られて、すっごく腹が立ったので、ちょっと調べてみたんです。そうしたらネット上では、制服の色から「ミドリムシ」と呼ばれていて、蔑視されている。なんかそこで悲哀を感じたのと同時に、駐車監視員っておそらくこれぐらい嫌われているから、きっといやな目にもいろいろと遭っているだろうなと想像してしまったんですよね。それで、これで何か1つ物語ができないかと思って、だいたいのプロットを考えて、あとは脚本家の太田(善也)さんにお渡ししてアイデアをふんだんに入れ込んでもらいました。
——几帳面できっちりした性格で不正は見逃さないマコトと、いい加減な性格でどこか調子のいいシゲという駐車監視員二人のままならない日常の物語が縦軸で進行していく中、枕営業をせざるえなくなったアイドルとマネージャー、借金取りのヤクザ、夢破れたミュージシャンなど、まったく関係ない人間たちが絡んできて、ドタバタの騒動が展開していきます。
ミドリムシと嫌われ者扱いされている職業ですけど、それに追随するような内容にはしたくなかった。もちろん駐車監視員というところに焦点は当てているんですけど、その仕事というよりは、そこで働く人間の悲喜こもごもを見つめれたらいいなと。その上で、ドタバタのストーリーが転がっていけばいいと思っていたので、太田さんから脚本を見せてもらったときはすぐ「これでいこう」と思いました。
——撮影する上で、留意した点はありましたか?
脚本の太田さんは舞台を中心に活躍されている方で、わりとセリフでシーンをつなげていくところが多い。そのセリフを最大限に生かしたい気持ちがあったので、そのセリフが似合う、あるいは映える場所を探すのが大変でしたね。ロケハンはむちゃくちゃしました。
——夜から朝までの話ですけど、夜の撮影は大変だったんじゃないですか?
勢いでできると思っていたんですけど、そんなもんじゃない(笑)。夜の撮影を低予算でやるのはほんとうに大変ということを痛感しました。ちゃんとお金がある体制でやらないと(苦笑)。ほんとうにスタッフにも役者さんにも申し訳なかったのですが、10日の撮影で、3回ぐらい朝を迎えてます。日暮れから撮影を始めて、朝の5~6時ぐらいまで。
借りていたスタジオを追い出されたこともありました。新宿で撮っているところがあるんですけど、許可をとっていたんですけど、ちょっと許可下りるのとタイムラグがあったみたいで、警察がきて撤収させられたり、ほんとうにいろいろありました。
——そんな深夜撮影の連続なのに、けっこう役者のみなさんを全力疾走させてますよね(笑)
そうなんですよ。あのシーンは朝5時とかだったと思います。だから、今回入選していなかったら、たぶん役者陣に殺されてると思います(笑)
——また、駐車監視員の物語に、まったく違うエピソードが組み込まれてきますから、必要となるカットやその映像の組み合わせも複雑ですよね?
初めて撮るとしては、難易度が高かったということが身に沁みてわかりました。ただ、楽しみも苦しみもわかったので、すごくいい経験にはなったんですけど。振り返ると、10日でよく撮り切れたなと思います。
——ただ、そういう中でも、それぞれの役者さんに見せ場を作っていて、役者さんの気持ちを大切にした丁寧な演出をされている印象を受けました。
自分も役者をやっているので、作品を褒められるのもうれしいですが、役者さんがいいねといわれるのが一番うれしいです。役者の芝居が魅力的に見える演出で撮ろうとは常に考えています。蜷川さんには「お前は役者に甘い」と怒られそうですけど(笑)
監督なんですけど、僕自身あまり自分のことを監督と思っていないんですよ。お芝居の最後の責任者であればいいと。お芝居にはこだわっていきたい。役者の芝居と役者をきちんと撮りたい。そこが基本にあります。
——その役者さんの演出では今回どんなことを?
実は、リハーサルをやりませんでした。脚本を渡すので、みなさんで考えて当日もってきてくださいと。
今回は完全に自由というわけではないんですけど、がんじがらめにするより、わりと自由な中で出てきたものを生かす形の方がいい結果を生むんじゃないかと思ったんですよね。役者にとってなにも指示されないのはそれはそれでプレッシャーなんですけど、それに打ち勝って期待に応えてくれたと思っています。
まあ、そう振り切れたのはやはり信頼のおける役者さんが集まってくださったからというのがあると思います。長谷川朝晴さん、戸田昌宏さん、仁科貴さん、吉本菜穂子さんらそうそうたるバイプレイヤーが出演を承諾してくださって、監督としてはコントロールするより、役者に最高のパフォーマンスをしてもらえる状態を作るのが仕事で。その場を作った上で、出してもらったものをチョイスすればいいかなと思えたんです。今考えると、なかなか怖いことにトライしたなと思うんですけど。
——主演の富士たくやさん、ほりかわひろきさんとは昔からの付き合いですか?
ほりかわさんは僕の初めての自主映画の主演です。富士さんは今回が初めてですね。実は、今回は、二人から何か撮ってもらえないかといわれたのが始まりなんです。ちょうどそのときに、駐車監視員のアイデアが浮かんで、この二人ならぴったりじゃないかなと。それがこうやって形になって、よかったです。
——完成した今、どんな気持ちでしょう。
初長編映画って、おそらく通常は自分の気持ちを大切に熱いものをぶつけるみたいなところがあると思うんです。それはすごく大切なことだと思います。ただ、僕の場合、役者を長くやっていることもあって、その道にはその道のプロがいることがわかってしまっている。だから、餅は餅屋じゃないですけど、脚本は脚本家にと、その道のエキスパートに頼んだほうがいいものができるのではないかと思っちゃうんです。プロにそれぞれの持ち場で本領を発揮してもらって、それを結集したほうがすごいものができるんじゃないかと。
まだ足りないことがいっぱいあると思うんですけど、今回はその一端を味わえたというか。だから今はもう次の長編を早く撮りたいです。
——今回の映画祭がワールド・プレミアとなります。
いや、いいのかな。ほかの作品を観ると、ほとんどが若者の物語で。僕の作品だけが、おっさんたちがもがいている話なので、大丈夫かなと(笑)。見てもらえればきっと楽しんでもらえると思うのでよろしくお願いします。
(取材・文:水上賢治)