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【デイリーニュース】vol.23 クロージング・セレモニー(表彰式)開催!

映画の可能性、映画への希望を感じて!

クロージング・セレモニーに登壇した受賞者、審査員ら

 

7月13日(土)にオープニング作品『イソップの思うツボ』の上映とともに開幕したSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019。9日間の開催期間中には国際コンペティション部門10作品、国内コンペティション長編部門5作品、同短編部門9作品が上映され、最終日の21日(日)、クロージング・セレモニーと各賞の表彰式が行われた。

 

クロージング・セレモニーでは、映画祭実行委員会会長の上田清司・埼玉県知事が「本映画祭から多くの監督やクリエイターが羽ばたき、現在も活躍しています。今日賞に選ばれる作品がここにとどまることなく、日本中、世界中で大きな評価を得られること、映画祭が今後さらに飛躍することを期待しています」と挨拶。

 

八木信忠・総合プロデューサーはまず、7月18日に起こった京都アニメーションのスタジオ放火事件に言及した。「映画祭の開催期間中、112年前に日本で初めて映画が上映された京都で悲しい事件がありました。亡くなった方々に哀悼の意を表するとともに、負傷された方々には早いご快癒を念じています」「来年は東京オリンピック開催の年でもあり、我々もいい映画祭にするため明日から始動します」

 

続いて、上田知事と映画祭実行委員会副会長の奥ノ木信夫川口市長から、各賞の受賞作と受賞者が発表された。受賞コメント、および審査委員長の総評は以下の通り。(*受賞一覧はこちら

 

国際コンペティション

最優秀作品賞
観客賞
ザ・タワー』(マッツ・グルードゥ監督)パトリス・ネザン プロデューサー

レバノンの難民キャンプで暮らす少女を描いた本作を持って、現在、中東の難民キャンプを回っているという監督のかわりに、プロデューサーのパトリス・ネザン氏がトロフィーを受け取った。

 

「この作品を日本の観客のみなさんに見ていていただき、また素晴らしい賞を受賞することができて光栄です。上映後には多くの反響や熱意を感じることができ、嬉しく思います。日本ではパレスチナの難民問題は縁遠いかもしれませんが、人間性は世界共通の普遍的なもの。世界中の難民キャンプで起こっていることも、誰もが理解し共感できるのではないかと思います。

アニメーション制作は時間がかかるものです。この作品も8年かかっています。しかし監督のマッツと私がやりたいことははっきりしていました。彼は子どもの頃、NGOのセイブ・ザ・チルドレンで看護師をしていた母親とともに毎夏、この難民キャンプで過ごしました。現実をできるだけ忠実に描き、ここに暮らす人々の愛や尊敬、ユーモアを描きたかった。監督は繊細で人間性あふれる作家です。誰もが持つ人間性に訴えようとする監督に寄り添うことは、プロデューサーにとっても贅沢な経験でした。

ヨーロッパ、特にフランスは、日本のアニメーションやグラフィックノベルから多大な影響を受けています。この作品が互いの架け橋となれることを非常に光栄に思います。特に大人向けのアニメーション作品を作る私たちは、日本の作品に多くのインスピレーションをもらいました」

ザ・タワー』パトリス・ネザン プロデューサー

 

監督賞
イリーナ』(ナデジダ・コセバ監督)ステファン・キタノフ プロデューサー

来日がかなわなかったナデジダ・コセバ監督にかわり、プロデューサーのステファン・キタノフ氏が挨拶。

 

「とても光栄です。監督のかわりに感謝を伝えたいと思います。今回、日本で素晴らしい時を過ごしましたが、京都で起きた火災にはとても心を痛めています。気持ちは遺族の皆さんとともにあり、世界が平和になることを願っています。日本のみなさんは、ブルガリアというとヨーグルトや琴欧州を連想すると思いますが、今後は映画もそのひとつになって欲しいと思います」

イリーナ』ステファン・キタノフ プロデューサー

 

監督賞
陰謀のデンマーク』ウラー・サリム監督

「初の来日でしたが、『ロスト・イン・トランスレーション』のような状態になることはなく、温かく迎えていただきました。人を敬う日本の文化から、世界が学ぶべきことはたくさんあると思います。この作品は“起こりうる最悪の事態”を描いていますが、最悪の事態と同時に考えるべきは、いかに“起こりうる最良の事態”を見出すか。映画にはそういう力があります。デンマークでこの映画を作り、いまここに立って、日本の皆さんに作品を認めてもらえるなんて数年前には想像もできなかった。映画作家として希望を与えてもらいましたし、次の作品をもっといいものにしようという気持ちになりました」

陰謀のデンマーク』ウラー・サリム監督

 

審査員特別賞
ミッドナイト・トラベラー』ハサン・ファジリ監督

来日がかなわず、欠席。「映画祭より責任をもってトロフィと副賞をお届けします」。

 

【審査委員長総評 三池崇史氏】

「(『ザ・タワー』に対し)おめでとうというより、素晴らしい作品をありがとうございます。審査員にはそれぞれ映画にかかわっている立場の違う4人が集まりました。現場で映画を作る専門家、企画したり、いかにお金を集めて観客に見せるかをビジネスの視点から見ている人、アジアで最初に開かれた国際映画祭、シンガポール映画祭のディレクターという4人と、映画祭の観客の意見がすべて一致したのがこの映画の素晴らしいところ。自分は世界の歴史をよく知っているわけではありませんが、レバノンに暮らすパレスチナ人の少女ワルディと心を通わすことができました。それをノルウェー出身の監督が撮ったということに、映画の希望や可能性、すごさを感じました。子どもも大人も、自分の失った優しさを取り戻す、いま日本人が最も見るべき映画だと思います」

「国際コンペティション部門の長編10本、いずれも素晴らしく、キャリアの浅い新人が作ったとはとても思えない、技術的にも、志もレベルも高い作品ばかりでした。審査するうえで戸惑ったのは、ジャンルがそれぞれ違うこと。サスペンスや日常を描いたもの、居場所を失った移民、困難な状況に置かれた人間の内面を描くキュメンタリー、アニメーションもあり、これぞDシネマ映画祭。普通はジャンルでくくるものですが、この映画祭はフリーで作品に垣根がない。この映画祭らしさはそこにあると感じました」

「映画監督として個人的なお願いがあります。今日受賞された方はこのあとすぐ家族やスタッフに連絡し、そのことによって世界のいろいろな国に笑顔が広がっていくでしょう。我々映画を作る人間には、その喜び、その事実が苦しい時の支えになる。それは自分自身もありがたく感じることです。同時に、映画祭には重い責任も生まれます。この映画祭で賞をとったことがいつまでも誇りになるよう、高いレベルを保ち、願わくばあまり商業的にもならず、忖度もせずに続けてほしい。この映画祭は非常に優れていて、個性的、そして自立しています。埼玉県も川口市も誇るべきことです。現場の人間を代表して言いたいのは、この素晴らしい映画祭を大変でしょうが、続けていってくださいということ。次の世代の作品たちに出合えたことを幸せに思い、自分も引退まで頑張りたいと思います」

三池崇史審査委員長

 

国内コンペティション

 

SKIPシティアワード
ミは未来のミ』磯部鉄平監督

「映画祭期間中は、サンダルを履いてウロウロしていて、『セレモニーくらい靴を履きなさい』と怒られて、昨日靴を買ったので、壇上にあがれてよかったです(笑)。昨年、短編部門で優秀作品賞をいただいて、『長編を撮って早くSKIPに帰ってきたい』とこの場で言ったんですが、一年後に戻ってこられて、賞までいただいて本当に嬉しいです。初長編は自分の高校三年生の時の話をやろうと決めていたので、その話で賞を獲れたことも嬉しいです」

ミは未来のミ』磯部鉄平監督

 

優秀作品賞[長編部門]
サクリファイス』壷井濯監督

「平成の終わりに多くの凶悪殺人犯と呼ばれる人たちが死刑になって、何も語られないまま令和になり、こんどは登戸の事件、先週は京都アニメーションの事件が起きて、改めて物語にできることはなに何もない、ともどかしく思いました。3.11の時もずっとそう思っていて、押し寄せる津波に対してできることは何もないですが、これから来る第2波、第3波に対しては、物語にできるもの、守れるものがあると思います。ここに一緒に参加できた若い人たちと一緒に物語を紡いでいきたいと思っています。SKIPシティは多様性に満ちた場所。(映画祭マスコットの)デジたるくんの色がごちゃごちゃしてるのも、多様性を表しているんじゃないかと思います。ここから色がひとつでも欠けたらいけない。その色をすべて守っていくことが映画の役割だと思うので、とにかく若い人と頑張りたい。いまある既成の権威とかそういうものを壊して、みんなが明日はもっと良くなる、と思える社会を作っていきたいです」

サクリファイス』壷井濯監督

 

優秀作品賞[短編部門]
遠い光』宇津野達哉監督

「幼少の時から猟に連れて行ってくれた叔父の奥さん、僕からすると叔母さんがガンになったことをきっかけに脚本を書き出すという、すごく個人的なスタートをした作品です。映像化にあたっては、居酒屋でたまたま会った材木店の社長さんに『映画を作りたいんだ』と言ったら300万円ポンと出してくれた。そんな始まりだったのですが、まさかこんな素晴らしい賞をいただくことになるとは。普段は映画やドラマのメイキングを作ったり助監督として活動していますが、これからは監督として長編や商業デビューできるよう、一歩ずつ頑張っていきたいと思います」

遠い光宇津野達哉監督

 

観客賞[長編部門]
おろかもの鈴木祥監督

「映画関係者、本作品を観てくれた観客の皆様、映画を一緒に作った俳優陣、しっかり仕事に集中してくれたスタッフ、支えてくれた家族に感謝します。大学を卒業して約10年ぶりに芳賀君と一緒に映画を撮ったんですが、映画を作っている最中は時間を忘れるくらい楽しかった。今後も機会があれば続けていきたいと思います」

おろかもの』芳賀俊監督

「自分の子どものような作品が、観客の皆様に愛されたことが本当に嬉しいです。ありがとうございました」

おろかもの』鈴木祥監督、芳賀俊監督

 

観客賞[短編部門]
歩けない僕らは』佐藤快磨監督

「この作品は回復期リハビリテーション病院を舞台にした、脳卒中で突然歩けなくなった方々の物語です。脚本を書いていく中で、歩ける自分がこの映画を撮る意味をずっと考えていました。一年弱、取材したり話を聞いたんですが、今回上映する直前までその思いは消えませんでした。上映後、観客の皆さんからご質問やご感想をいただいたことで、この映画に対する向き合い方が一歩前に進めた気がします。映画は観客に見てもらって初めて映画になることを感じました。このような機会を与えていただき、また映画祭に温かく迎えていただいたことに感謝します。またこの映画祭に帰ってこられるよう、面白い脚本を書いて精進します」

歩けない僕らは』佐藤快磨>監督

 

【審査委員長総評 荻上直子氏】

「(SKIPシティアワードの)『ミは未来のミ』の童貞男子のバカバカしい会話と、あほらしい行動力がすがすがしくて、いとおしくなりました。私たち審査員は、磯部監督の次の作品に期待し、この賞を決定しました。デジタル化が進んでクオリティがアップして、このまま劇場でかけられるんじゃないかという作品もいくつかありました。一方で、本当に作りたくてしようがない、パッションの満ちた、ほとばしるような、狂ったような映画は、近年なかなか見せてもらえない。それは、ちょっと残念に思います。私も自主映画出身で、みなさんがどれだけ映画を作りたくてしょうがないかはわかっているつもりです。10年後、20年後もずっと作り続けてください」

荻上直子審査委員長